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病院DX全般

厚労省による病院向けICT補助金「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」を解説

【監修】小松 大介

はじめに

2026年度、「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」が開始されました。

本制度は、病院におけるICT機器等の導入を支援し、業務効率化や職場環境改善、生産性向上を後押しする補助制度です。

最大8,000万円の補助を受けられる可能性がある一方で、「業務効率化計画」の策定や定量的な効果測定なども求められます。

そのため、単なるICT機器購入補助としてではなく、「病院全体の業務改善をどのように進めるか」という視点が重要になります。

本記事では、「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」の制度概要や補助対象、活用イメージ、申請時の注意点について解説します。

医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業とは

制度の概要

「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」は、厚生労働省による病院向けの補助事業です。

病院におけるICT機器等の導入を支援し、業務効率化や職場環境改善、生産性向上を進めることを目的としています。

申請は各都道府県を通じて行われ、病院が作成した「業務効率化計画」などをもとに、厚生労働省が補助対象病院を選定します。

補助対象となった場合、業務効率化に必要なICT機器等の導入費用について、1施設あたり最大8,000万円の補助を受けられる可能性があります。

(対象となる病院)
・令和8年4月1日時点でベースアップ評価料を届け出ている病院
・実施要綱で求める要件を満たす病院

制度の詳細については、厚生労働省の公表資料もご確認ください。

なぜ今この制度が始まったのか

近年、医療現場では人手不足や働き方改革対応などを背景に、業務効率化や生産性向上の必要性が高まっています。

特に病院では、医師や看護師をはじめとした医療従事者の負担増加が課題となっており、長時間労働の是正や業務負担軽減が求められています。

こうした状況を踏まえ、国としても医療DXを推進しており、ICT機器やデジタル技術を活用した業務改善を後押しする目的で、本制度が創設されました。

単なるシステム導入ではなく、「限られた医療資源の中で持続的に医療提供体制を維持する」という観点から、病院全体の業務改善を進めることが期待されています。

申請スケジュール

現時点では、以下のスケジュールが予定されています。

  • 6月頃:各都道府県で病院からの申請受付開始
  • 7月下旬頃:各都道府県での申請締切
  • 7月下旬頃:都道府県から厚生労働省へ計画書等を提出
  • 8月上旬以降:厚生労働省による補助対象病院の選定・通知後、事業開始

本制度では、病院が「業務効率化計画」を作成し、申請書とともに都道府県へ提出する必要があります。

また、現時点では、原則として、補助対象病院として決定された後に実施したICT機器等の導入費用が補助対象とされています。

そのため、導入時期や契約・発注タイミングについては、最新の案内を確認しながら進めることが重要です。

なお、申請受付期間や提出方法などの詳細は、各都道府県から案内される予定となっています。

補助対象となる内容

対象となるICT機器・システム

本制度では、病院における業務効率化や職場環境改善につながるICT機器等が補助対象となります。

対象例としては、以下のようなものが挙げられています。

  • スマートフォン
  • 業務用インカム
  • 見守り支援機器
  • AI問診
  • 文書作成支援AI
  • 薬剤・検体搬送ロボット
  • 薬剤自動分包機
  • 勤怠管理システム
  • シフト管理システム

など

また、本制度は特定部門に限定されたものではなく、医師部門・調剤部門・看護部門・リハビリ等のコメディカル部門・事務部門・給食部門など、病院全体の業務効率化に資するICT機器等が対象とされています。

システム連携費用やWi-Fi整備も対象

本制度では、ICT機器本体だけでなく、導入に附随する費用も補助対象とされています。

例えば、

  • 電子カルテ連携改修
  • Wi-Fi環境整備
  • 設置費用
  • 訓練費用
  • 効果測定費用

なども対象となります。

また、クラウドサービス等については、令和8年度中に発生する月額利用料等も一定範囲で対象となる場合があります。

電子カルテ本体は原則対象外

一方で、電子カルテ導入費用そのものは、原則として補助対象外とされています。

ただし、電子カルテと連携する周辺システムの導入や、システム連携改修費用などは対象となる場合があります。

そのため、「電子カルテ本体を導入する補助金」というよりも、「病院全体の業務効率化につながるICT活用を支援する制度」と捉えると分かりやすいでしょう。

補助金活用で病院が注意したいポイント

「業務効率化計画」の策定が必要

本制度では、ICT機器等を導入するだけではなく、「業務効率化計画」を作成した上で申請を行う必要があります。

計画では、単年度ではなく最大3年間を見据えた取り組み内容を整理することが求められており、

  • 現在の課題
  • 導入するICT機器・サービス
  • 業務手順の見直し内容
  • タスク・シフト/シェアの内容
  • 年度ごとの取り組み
  • 定量的な効率化目標
  • 効果測定方法
  • 推進体制

などを記載する必要があります。

また、院長や副院長など経営層が関与する「業務効率化推進委員会」の設置も求められており、導入後も継続的にPDCAを回しながら業務改善を進めることが前提となっています。

さらに、採択にあたっては、

  • 病院内の課題を具体的・定量的に把握できているか
  • 課題に対して適切なICT導入となっているか
  • 業務効率化を継続的に推進できる体制があるか
  • 導入後の定着・拡大まで見据えられているか

なども評価されます。

そのため、単に「ICT機器を導入したい」という計画ではなく、「どの業務を、どのように改善したいのか」を具体的に整理することが重要になります。

定量的な効果測定が求められる

本制度では、ICT導入後の効果測定も重視されています。

例えば、

  • 業務時間の削減
  • 超過勤務時間の変化
  • 職員配置への影響
  • インシデント件数
  • 超過勤務手当や委託費の変化

などのデータ提出が想定されています。

また、単に導入後の効果を報告するだけではなく、導入前後で比較できるよう、事前に現状データを取得しておくことも重要になります。

実際に、制度上も「導入前の連続5日間の業務時間」や「導入前1か月間の超過勤務時間」などを基準として、導入後6か月・1年後と比較する形が想定されています。

そのため、

  • どの業務を効率化したいのか
  • どの指標で効果を測るのか
  • 現状がどの程度なのか
  • 導入後にどのような状態を目指すのか

を事前に整理した上で、計画的に測定・運用していくことが重要となります。

業務フローや運用の見直しも重要

本制度では、ICT機器等の導入だけでなく、業務手順の見直しやタスク・シフト/シェアなども重視されています。

実際に、業務効率化計画では、

  • 導入前後でどのように業務フローを変えるのか
  • どの業務を他職種へ移管・分担するのか
  • ICT導入によって現場運用をどう改善するのか

といった内容も求められています。

そのため、「システムを導入すれば自動的に効率化される」というものではなく、現場運用や業務設計まで含めて検討することが重要になります。

また、導入後の定着や活用まで見据えた運用体制を構築できるかどうかも、今回の制度では重要なポイントとなります。

ランニングコストは継続的に発生する

ICT機器やシステムは、導入して終わりではなく、導入後も継続的な保守・運用が発生します。

例えば、システム保守費用やライセンス費用、サーバ・ネットワーク関連費用など、導入後も継続的にコストが発生するケースは少なくありません。

また、本制度では、導入時の費用は補助対象となる一方、将来的な運用・保守費用については病院側で継続的に負担していくことが前提となっています。

そのため、単に「補助金があるから導入する」のではなく、

  • 導入後も継続運用できるか
  • 現場で定着・活用できるか
  • 自院の業務改善につながるか

まで含めて検討することが重要になります。

地域医療構想との整合性も見られる

本制度では、単にICT機器等を導入するだけではなく、地域医療への貢献や地域医療構想への協力状況なども確認事項とされています。

実際に申請要件でも、

  • 都道府県医療計画における5疾病6事業や在宅医療への対応
  • 地域医療構想調整会議への参加
  • 病床機能分化・連携への協力

など、地域医療への一定の貢献が求められています。

また、地域医療構想に反する形で病床機能を拡大しようとしている場合などは、対象外となる可能性も示されています。

一方で、都道府県医療計画に明確に位置づけられている病院に限定されるわけではなく、地域医療に一定の貢献をしていると都道府県が判断した病院も対象となり得るとされています。

そのため、本制度は単なる院内DX支援ではなく、地域医療提供体制の維持・強化も意識した制度設計となっている点が特徴といえるでしょう。

補助金を活用しやすいテーマ例

看護業務の効率化

看護部門では、複数のICT機器やシステムを組み合わせることで、業務効率化や負担軽減につなげることが考えられます。

導入例想定される改善
バイタル連携+電子カルテ連携転記作業削減、入力ミス防止
音声入力+スマートフォン活用看護記録作成時間の削減
ナースコール連携+スマートフォンスタッフ間連携の効率化
見守り機器導入夜間巡視負担の軽減
インカム導入情報共有の迅速化

このように、単体機器の導入だけではなく、「どの業務負担を軽減したいのか」を整理しながら組み合わせを検討することが重要です。

また、導入後には、

  • 看護記録作成時間
  • 夜間巡視回数
  • 超過勤務時間

などを測定し、実際にどの程度業務改善につながったかを確認していくことも求められます。

医師事務作業の削減

医師部門では、文書作成や入力作業の効率化を目的とした活用が考えられます。

例えば、以下のような組み合わせです。

導入例想定される改善
音声入力+文書作成支援AI診療録・紹介状作成時間の削減
テンプレート整備+AI活用退院時サマリ作成の効率化
スマートフォン+音声入力移動中や診察後の入力負担軽減
文書作成支援AI+医師事務作業補助者文書作成業務の役割分担最適化

特に、紹介状や退院時サマリ、診断書作成などは、医師の負担が大きくなりやすい業務の一つです。

そのため、単にAIツールを導入するだけではなく、

  • どの文書を対象とするのか
  • 誰がどこまで入力・確認するのか
  • 医師事務作業補助者とどう役割分担するのか

など、運用設計まで含めて検討することが重要になります。

また、導入後には、

  • 文書作成時間
  • 医師の超過勤務時間
  • 医師事務作業補助者の配置効率

などを測定し、業務改善効果を確認していくことも求められます。

医療事務・外来業務の効率化

医事部門や外来部門においても、ICT活用による業務効率化が期待されています。

例えば、以下のような組み合わせです。

導入例想定される改善
レセプト点検支援システムレセプト点検業務時間の削減
受付システム+順番表示システム外来患者待ち時間の短縮
問診システム+受付連携受付・問診業務の効率化
自動精算機+会計導線見直し会計待ち時間の短縮

病院では、受付・会計・レセプト点検などに多くの業務負担が発生しているケースも少なくありません。

また、外来患者の待ち時間短縮は、患者満足度向上だけでなく、窓口混雑や問い合わせ対応の軽減など、職員負担軽減につながる側面もあります。

そのため、単にシステムを導入するだけではなく、

  • 外来導線をどう見直すのか
  • どの業務を効率化するのか
  • 受付・会計運用をどう変更するのか

まで含めて検討することが重要になります。

バックオフィス業務改善

事務部門やバックオフィス部門においても、ICT活用による業務効率化が期待されています。

例えば、以下のような組み合わせです。

導入例想定される改善
勤怠管理システム+シフト管理システムシフト作成・勤怠集計業務の効率化
ワークフローシステム紙運用削減、申請・承認業務の効率化
スマートフォン活用+電子申請各種申請・確認作業の迅速化
勤怠管理+超過勤務分析超過勤務時間の可視化・改善

病院では、紙やExcelベースで運用されている業務も多く、申請・承認・勤怠集計などに時間を要しているケースも少なくありません。

そのため、単にシステムを導入するだけではなく、

  • どの業務をデジタル化するのか
  • 誰が承認・確認するのか
  • 既存運用をどのように変更するのか

まで含めて整理することが重要になります。

また、導入後には、

  • 勤怠集計時間
  • 申請・承認に要する時間
  • 超過勤務時間
  • 紙帳票の削減量

などを測定し、業務改善効果を確認していくことが求められます。

搬送・物流の効率化

病院内の搬送・物流業務においても、ICT機器や自動化設備を活用した業務効率化が期待されています。

例えば、以下のような組み合わせです。

導入例想定される改善
搬送ロボット・搬送機器(検体・薬剤搬送)病棟間搬送負担の軽減
自動分包機+薬剤部門運用見直し調剤業務時間の削減
搬送動線見直し+物流管理改善搬送業務時間の削減

病院では、薬剤・検体・物品などの搬送業務に多くの時間や人手を要しているケースも少なくありません。

また、搬送業務は複数部門にまたがることも多いため、単に機器を導入するだけではなく、

  • どの搬送業務を対象とするのか
  • 誰がどのタイミングで対応するのか
  • 既存動線をどのように見直すのか

なども含めて検討することが重要になります。

導入後には、

  • 搬送業務時間
  • 薬剤部門業務時間
  • 超過勤務時間
  • 搬送対応回数

などを測定し、実際の業務改善効果を確認していくことが求められます。

まとめ

「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」は、病院DXを後押しする大型補助制度です。

一方で、単なるICT機器購入補助ではなく、「業務効率化計画」の策定や定量的な効果測定、継続的なPDCA運用まで求められる制度となっています。

また、今回の補助金では、ICT機器を導入すること自体ではなく、「導入後にどのような効果を出すか」「どのように現場へ定着させるか」も重要なポイントとなります。

そのため、

  • 何を効率化したいのか
  • どの業務を見直したいのか
  • どのような運用体制を構築するのか

を整理した上で、補助金活用をきっかけに病院全体の業務改善を見直していくことが重要です。

シーズ・ワンでは、病院向けのDX・業務改善支援として、

  • ICT導入支援
  • 業務整理・運用設計
  • 効果測定支援
  • 定着・活用支援

などを行い、単にシステムを導入するだけではなく、医療現場での経験が豊富なメンバーが伴走しながら「病院全体の業務改善」をハンズオンで支援します。 「自院でどのような活用ができるか分からない」、「補助金活用を踏まえて検討したい」といった段階からでも、お気軽にお問合せください。


監修

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。(株)シーズ・ワン 常務執行役員。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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