電子カルテ
東京都の電子カルテ補助金(令和8年度病院診療情報デジタル推進事業)とは?対象要件・申請時の注意点を解説
【監修】小松 大介
はじめに
電子カルテの導入・更新は、病院にとって大きな投資判断の一つです。近年は医療DXの推進や院内業務の効率化を背景に、電子カルテの導入を検討する医療機関が増えていますが、初期費用や更新費用が課題になるケースも少なくありません。
こうした中、東京都では「令和8年度病院診療情報デジタル推進事業」として、電子カルテの導入・更新費用を支援する補助金制度を実施しています。
一方で、「自院が対象になるのか分からない」「何が補助対象なのか分かりにくい」「申請までに何を準備すべきか知りたい」と感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、東京都の電子カルテ補助金の概要や申請時の注意点について、分かりやすく解説します。
東京都の「令和8年度病院診療情報デジタル推進事業」とは?
制度概要
東京都では、病院における診療情報のデジタル化を推進するため、「令和8年度病院診療情報デジタル推進事業」を実施しています。
本事業は、電子カルテシステムの導入・更新にかかる費用負担を軽減し、医療機関のデジタル化を後押しすることを目的とした補助金制度です。
近年は、国主導でも厚生労働省 を中心に医療DXが推進されており、電子処方箋や医療情報連携の整備が進められています。こうした流れを受け、東京都としても医療機関のICT基盤整備を支援する動きが強まっています。
電子カルテの導入・更新には多額の費用がかかるケースも多く、導入を検討していても予算面がハードルになる病院は少なくありません。今回の補助金は、そうした医療機関にとって活用を検討しやすい制度といえるでしょう。
一方で、補助対象となる医療機関や経費には条件があるため、詳細は必ず東京都の最新公募要領を確認することが重要です。
補助対象となる医療機関
本補助金の対象となるのは、東京都内で病院を開設し、東京都知事が適当と認める医療機関です。新たに病床配分決定を受け、新規開設を予定している病院も対象に含まれます。
なお、過去に同様の補助金を受けてから5年が経過していない病院は対象外となりますのでご注意ください。
補助対象となる費用
本事業では、電子カルテシステムの導入・更新に関する費用が補助対象となります。
具体的には、以下のような費用が対象です。
- 標準規格※に準拠した電子カルテシステムの導入費用及び更新費用
- サーバーなどの関連機器の導入費用
- システム設計・開発費用
- 情報セキュリティ対策費用
- 取付工事費用
- 電子カルテとオーダリングシステム・医事会計システムなどを連携させるための改修費用
また、紙カルテから初めて電子カルテへ移行する病院については、導入後の事務作業を支援する人件費も補助対象となっています。
一方で、以下のような費用は補助対象外です。
- 検査システムなど部門システム単体の導入・更新費用
- 機器・システムの保守費用
- 通信費などの継続的な運用費用
電子カルテ関連の費用であっても、すべてが補助対象になるわけではないため、事前に対象範囲を確認しておくことが重要です。
※補助対象となる電子カルテには、厚生労働省が定める標準規格要件(SS-MIX2、HL7 FHIRなど)があります。詳細は公募要領をご確認ください。
補助金額
補助金額は、病床数によって異なります。
| 区分 | 基準額 |
| 電子カルテシステム整備支援 | 60.5万円 × 病床数 |
| 電子カルテ運用に伴う事務作業支援 | 360万円 × 配置月数 ÷ 12 |
また、補助率は病院規模によって異なります。
| 病院規模 | 補助率 |
| 200床以上の病院 | 1/2 |
| 200床未満の病院 | 3/4 |
例えば、100床の病院であれば、電子カルテ整備支援の基準額は 6,050万円 となります。
ただし、実際の補助金額は「対象経費」と「基準額」を比較し、小さい方の金額に補助率を掛けて算出されます。
そのため、必ずしも上記金額がそのまま補助されるわけではない点には注意が必要です。
申請スケジュール
令和8年度の申請期限は、以下の2回設定されています。
- 第1回提出期限:令和8年5月29日(金)
- 第2回提出期限:令和8年7月31日(金)
東京都の手引きによると、第1回締切までに提出した案件から順次審査が進められるため、より早いタイミングで整備を進めたい場合は、第1回での申請が望ましいとされています。
一方で、電子カルテ導入・更新は、ベンダーとの見積調整や院内稟議などに想定以上の時間がかかるケースも少なくありません。
締切直前に準備を始めると必要書類が間に合わない可能性もあるため、申請を検討している場合は早めに準備を進めることをおすすめします。
申請方法・必要書類
申請は、補助金申請システムjGrants上で行います。
申請時には、主に以下の書類提出が必要です。
- 病院診療情報デジタル推進事業補助金に係る交付申請書※
- 病院診療情報デジタル推進事業計画書
- 経費所要額調
- 見積書及びカタログの写し(整備内容及び所要額が確認できるもの)
- 歳入歳出予算書(見込書)抄本(当該補助事業の支出予定額が記載されているもの)
- 印鑑証明書※
- 直近3か年分の法人(開設者)全体の決算書及び補助金を申請する病院の決算書(損益計算書及び貸借対照表等
特に見積書については、単に金額が分かるだけでなく、補助対象となるシステム要件を満たしていることが確認できる資料の提出が求められます。
申請後は東京都による書類審査が行われ、審査会で事業計画や財務状況などが確認されたうえで交付決定となります。
なお、申請に必要な書類(様式)等は、jGrants上に掲載しております。 以下のURLからダウンロードの上、作成してください。
(電子カルテシステムの整備支援) https://www.jgrants-portal.go.jp/subsidy/a0WJ200000CDY70MAH
(事務作業支援) https://www.jgrants-portal.go.jp/subsidy/a0WJ200000CDY71MAH
※Jグランツで申請される場合、1及び6は提出不要です。
補助金受給のためのその他条件
本補助金は、電子カルテを導入・更新すれば自動的に受給できるわけではなく、導入後の運用に関する条件も設けられています。
主な条件は以下の通りです。
地域医療ネットワークへの参加
電子カルテ導入・更新後は、地域医療ネットワーク、または東京都医師会 が運営する「東京総合医療ネットワーク」へ閲覧施設として参加する必要があります。
国が進める医療DX施策への対応
国が構築を進めている電子カルテ情報共有サービスへの対応に向けた取り組みが求められています。将来的な医療情報連携を見据えた対応が前提となっている点は、あらかじめ理解しておくとよいでしょう。
導入後の効果検証への協力
補助金交付後は、5年間にわたり、電子カルテ導入による効果や課題に関する調査への協力が求められます。
電子カルテ補助金を活用する際のポイント・注意点
補助金ありきで導入判断をしない
今回の補助金は、電子カルテ導入・更新の費用負担を大きく軽減できる可能性があるため、非常に魅力的な制度です。
一方で、「補助金が使えるから」という理由だけで導入を急いでしまうと、導入後に想定外の負担が発生するケースもあります。
例えば、
- 自院の運用に合わないシステムを選んでしまう
- 必要な機能が不足している
- 現場で使いこなせず、業務負担が増える
といったケースです。
特に電子カルテは、一度導入すると短期間で簡単に入れ替えられるものではありません。
補助金はあくまで導入を後押しする制度の一つであり、最も重要なのは「自院に合ったシステムかどうか」を見極めることです。
導入スケジュールに余裕を持つ
電子カルテの導入・更新は、申請書を提出すればすぐに進められるものではありません。
実際には、
- ベンダーとの打ち合わせ
- 見積取得
- 院内での意思決定
- 契約手続き
- 導入スケジュールの調整
など、申請前後に複数の準備が発生します。
また、本補助金は申請後すぐに入金されるわけではなく、東京都の審査や交付決定、事業完了後の実績報告を経て支払われる流れとなっています。
「締切が近いからとりあえず申請する」という進め方では、結果的にスケジュールが間に合わなかったり、導入計画が十分に整理できないまま進んでしまう可能性があります。
補助金を活用する場合でも、余裕を持ったスケジュールで準備を進めることが重要です。
導入後の運用負荷も考慮する
電子カルテは、導入そのものがゴールではありません。
実際には導入後に、
- 医師・看護師・事務職員への操作説明
- 院内ルールや業務フローの見直し
- トラブル発生時の対応
- システム定着までのフォロー
など、一定の運用負荷が発生します。
特に、これまで紙カルテで運用していた病院では、現場の業務フローが大きく変わるケースもあり、導入直後に一時的な負担が増えることもあります。
東京都の補助金では、初めて電子カルテを導入する病院向けに、事務作業を支援する人件費も補助対象となっていますが、それでも院内での運用体制づくりは欠かせません。
「補助金を活用して導入できた」だけで終わらず、導入後に現場で活用できる状態まで見据えて準備を進めることが重要です。
よくある質問
電子カルテの更新も補助金の対象になりますか?
はい、既存の電子カルテシステムの更新も補助対象です。東京都の手引きでは、電子カルテの「導入」だけでなく、「更新」も対象経費として明記されています。
具体的には、既存システムのリプレイスに伴う
- サーバーなどの関連機器導入
- システム設計・開発
- 情報セキュリティ対策
- 取付工事
なども補助対象に含まれます。
また、電子カルテとオーダリングシステムや医事会計システムを連携するための改修費用も対象となっています。
一方で、保守費用や通信費などは補助対象外となるため、更新を検討している場合は、見積段階で対象範囲を確認しておくことが重要です。
今からでも申請に間に合いますか?
申請期限内であれば申請は可能ですが、準備状況によっては間に合わないケースもあります。
令和8年度の提出期限は以下の通りです。
- 第1回提出期限:令和8年5月29日(金)
- 第2回提出期限:令和8年7月31日(金)
ただし、申請には見積書や事業計画書、決算書類など複数の書類準備が必要です。
また、電子カルテ導入・更新を進める場合は、ベンダーとの調整や院内での意思決定にも一定の時間がかかることがあります。
すでに導入方針やベンダー選定がある程度進んでいる場合は間に合う可能性がありますが、検討をこれから始める場合は、まず必要書類やスケジュールを早めに確認することをおすすめします。
補助金は必ず採択されますか?
いいえ、申請すれば必ず採択されるわけではありません。
東京都の手引きでは、提出された申請書類をもとに書類審査が行われ、その後、事業計画や財務状況などについて確認が行われるとされています。
申請内容に不備がある場合や、要件を満たしていない場合は、補助対象とならない可能性があります。また、申請後すぐに補助金が支払われるわけではなく、交付決定、事業実施、実績報告などの手続きを経て、最終的に補助金が支払われる流れです。
そのため、
- 要件を満たしているか
- 必要書類に不足がないか
- 実現可能な導入計画になっているか
を事前に確認したうえで申請を進めることが重要です。
東京都以外にも同様の補助金はありますか?
はい、自治体によっては同様の補助制度が実施される場合があります。
近年は厚生労働省 が医療DXを推進していることもあり、都道府県や自治体が独自に電子カルテ導入・医療DX関連の補助金を実施するケースがあります。
ただし、
- 対象となる医療機関
- 補助対象経費
- 補助金額
- 申請時期
は自治体ごとに異なる可能性があります。
また、年度ごとに制度内容が変更されたり、募集が終了している場合もあるため、最新情報は各自治体の公式サイトや公募要領を確認することが重要です。
東京都以外で電子カルテ導入を検討している場合は、所在地の自治体で利用できる補助制度がないか確認してみるとよいでしょう。
まとめ
東京都の「令和8年度病院診療情報デジタル推進事業」は、電子カルテの導入・更新費用を抑えたい病院にとって、有効な支援策といえるでしょう。
一方で、補助金が活用できるからといって、十分な準備がないまま導入を進めてしまうと、申請手続きや導入後の運用で想定外の負担が発生する可能性もあります。
補助対象となる費用や金額、申請条件を事前に確認したうえで、自院に合った形で導入計画を進めることが重要です。
シーズ・ワンでは、クラウド型電子カルテを含むシステム導入支援や、病院DXの推進支援を行っています。制度の情報収集段階のご相談から、導入後の運用まで、お困りごとがあればお気軽にお問い合わせください。
監修
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。(株)シーズ・ワン 常務執行役員。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他