電子カルテ
標準型電子カルテとは?α版・標準化準拠との違い・医療機関への影響をわかりやすく解説
【監修】小松 大介
はじめに
標準型電子カルテは、国が医療DXの一環として整備を進めているクラウド型の電子カルテです。電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋など、医療機関同士で必要な診療情報を共有する仕組みと関係しており、今後の電子カルテ導入・更新を考えるうえで重要なテーマになっています。
一方で、「標準型電子カルテ」と「標準化に準拠した電子カルテ」の違いや、既存の電子カルテをすぐに入れ替える必要があるのか、今後の更新時に何を確認すべきかなど、医療機関として判断に迷いやすい点も少なくありません。
本記事では、標準型電子カルテの概要、α版の位置づけ、標準化準拠の電子カルテとの違い、医療機関が今後確認すべきポイントをわかりやすく解説します。
標準型電子カルテとは
国が医療DXの一環として整備を進めるクラウド型電子カルテ
標準型電子カルテとは、国が主導して整備を進めているクラウド型の電子カルテです。
従来の電子カルテは、医療機関やベンダーごとに仕様や運用が異なるため、診療情報の共有が難しい場合があります。標準型電子カルテは、電子カルテで扱う情報の形式やシステム間の連携方法を標準化し、医療情報を共有しやすくすることを目的に整備が進められています。また、「電子カルテ情報共有サービス」や「電子処方箋」など、国が整備を進める医療DX基盤との連携も見据えられています。
ただし、標準型電子カルテは、すべての医療機関が同じ電子カルテを使うという意味ではありません。標準化によって目指すのは、傷病名や処方情報などの医療データを異なるシステム間でも連携しやすくすることです。国が示す標準仕様や関連サービスとの連携を踏まえ、自院の規模や運用に合った電子カルテを検討することが重要です。
対象は主に医科診療所・中小病院
標準型電子カルテは、主に医科診療所や中小病院での活用を想定して検討が進められています。厚生労働省では、医科診療所向けと中小病院向けに、電子カルテ及びレセプトコンピュータの標準仕様書を整理しています。
電子カルテの導入や更新には、費用面・運用面・システム管理面で一定の負担が生じます。特に、医科診療所や中小病院では、専任の情報システム担当者を十分に配置できないケースもあり、導入しやすさや運用しやすさが重要になります。
そのため、標準型電子カルテでは、標準的な機能を備えたクラウド型の仕組みを前提に、医療機関が過度な負担なく利用できることが重視されています。
「標準電子カルテ」「電子カルテの標準化」との関係
標準型電子カルテと似た言葉として、「標準電子カルテ」や「電子カルテの標準化」という表現があります。近い文脈で使われることがありますが、意味を分けて理解しておくことが重要です。
標準型電子カルテは、国が整備を進めている具体的な電子カルテの仕組みを指す文脈で使われます。一方、電子カルテの標準化は、異なる電子カルテや医療情報システムの間でも、必要な診療情報を連携・共有しやすくするためのルールや仕様を整えることを指します。
標準型電子カルテが注目される背景
医療DX令和ビジョン2030で電子カルテ情報の共有が重視されている
標準型電子カルテが注目される背景には、国が進める医療DXの流れがあります。医療DXでは、全国医療情報プラットフォームの整備を中心に、電子カルテ情報の標準化、電子処方箋の普及、診療報酬改定DXなど、医療情報を安全かつ効率的に活用するための取り組みも進められています。
その中でも重要なテーマの一つが、患者の医療情報を、必要な場面で医療機関間で共有できる仕組みづくりです。たとえば、紹介・逆紹介、転院、救急受診、継続診療などの場面では、過去の診療情報や処方内容、検査結果などを適切に確認できることが、診療の質や安全性に関わります。
電子カルテ情報共有サービスでは、診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書などの「3文書」と、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報、処方情報などの「6情報」を共有することが想定されています。これらの情報を全国の医療機関等で共有・閲覧できるようにするためには、電子カルテ側でも標準化された形式で情報を扱えることが重要になります。
そのため、電子カルテの普及や標準化は、単に院内の記録を電子化するためだけではなく、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスを活用するための前提としても重要性が高まっています。

電子カルテ未導入・オンプレミス型電子カルテの課題
電子カルテ未導入の医療機関では、紙カルテや部門ごとのシステムに情報が分かれやすく、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスなどへの対応が進みにくい場合があります。今後、医療情報の共有や標準化が進む中で、電子カルテの有無は制度対応や業務効率にも影響しやすくなります。
また、すでに電子カルテを導入している医療機関でも、オンプレミス型や個別カスタマイズが多いシステムでは、更新費用や保守管理の負担が大きくなりやすい点が課題です。制度改正や外部連携への対応が必要になるたびに、個別改修やベンダー調整が発生し、費用面・運用面の負担が増えることもあります。
こうした背景から、標準仕様に基づくクラウド型サービスへの移行は、電子カルテ未導入の医療機関だけでなく、既存システムの更新時期を迎える医療機関にとっても、検討すべき選択肢の一つになっています。
2030年に向けた普及目標との関係
国は、遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す方針を示しています。
ここで注意したいのは、「標準型電子カルテ」の導入は必須ではない点です。国は電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋などに対応できる環境づくりを目指しており、各医療機関にといて重要なのは標準化された医療情報を扱える状態にしていくことです。
そのため、「義務化されるのか」「今すぐ入れ替えなければならないのか」といった視点だけでなく、次回の電子カルテ更新やシステム更改のタイミングで、標準仕様への対応状況や外部連携への対応方針を確認していくことが重要です。
標準型電子カルテα版とは
α版は本格運用前の検証段階にあたる
標準型電子カルテα版は、標準型電子カルテの本格展開に向けて、機能や運用上の課題を検証するための段階と位置づけられます。
厚生労働省の検討会では、標準型電子カルテのコンセプトや実装機能、モデル事業の実施計画などが議論されています。導入対象としては、電子カルテの普及が進んでいない200床未満の中小病院または診療所が想定されていますが、α版では、未導入医療機関の施設数や開発期間等を踏まえ、医科の無床診療所を対象とし、診療科によらない共通の診療行為を想定しています。
そのため、α版は一般的な完成版の商用製品とは異なります。医療機関としては、「今すぐ自院で導入すべき電子カルテ」として捉えるよりも、今後の標準仕様や民間電子カルテの対応方針に影響する動きとして押さえておくことが重要です
標準型電子カルテα版に搭載されている機能は以下資料のとおりです。


標準型電子カルテと標準化準拠の電子カルテの違い
標準型電子カルテと、標準化に準拠した電子カルテは、どちらも電子カルテ情報の標準化や医療情報の共有を見据えた仕組みという点では共通しています。ただし、両者は同じものではありません。
標準型電子カルテは、国が主導して整備を進めているクラウド型の電子カルテです。標準的な機能や電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋などとの連携を前提としており、医療機関で共通的に利用しやすい仕組みとして検討が進められています。
一方、標準化準拠の電子カルテは、民間ベンダーが提供する電子カルテで、国の標準仕様や関連サービスとの連携要件に対応していくものです。標準的な情報連携に対応しながらも、画面の使いやすさ、追加機能、部門システムとの連携、サポート体制などは製品ごとに違いが出ます。
| 比較項目 | 標準型電子カルテ | 標準化準拠の電子カルテ |
| 整備・提供主体 | 国が主導して整備を進める仕組み | 民間ベンダーが開発・提供する電子カルテ |
| 位置づけ | 標準仕様に基づく共通的な電子カルテ | 国の定める標準仕様や関連サービスへの対応を前提とした民間製品 |
| 主な対象 | 電子カルテ新規導入の医科診療所や中小病院などが想定される | 電子カルテの新規導入に加え、更新や業務改善を検討する幅広い医療機関 |
| 機能の考え方 | 共通的・標準的な機能を中心に構成 | 標準機能に加え、各社独自の機能やUIが加わる |
| レセコン・医事機能 | 標準仕様上の整理や連携の考え方を確認する必要がある | 電子カルテ・レセコン一体型、または連携型など製品ごとに異なる |
| 部門システム連携 | 標準的な連携を前提に整理される | 検査、画像、予約、文書管理、会計などとの連携範囲は製品ごとに異なる |
| 電子カルテ情報共有サービス等への対応 | 連携を前提として検討されている | 対応状況や対応時期はベンダーごとに確認が必要 |
| データ移行・出力 | 標準化された形式でのデータ連携・引き継ぎが重視される | 標準化対応に加え、既存データの移行支援や出力機能は製品ごとに異なる |
| 操作性・UI | 共通的に利用しやすい設計が重視される | 現場での使いやすさ、入力支援、画面設計などに各社の違いが出る |
| 導入・運用支援 | 国の整備方針や今後の運用設計に基づく | 導入支援、研修、問い合わせ対応、運用改善支援などはベンダーや支援会社により異なる |
| 費用 | 国の整備方針や今後の提供条件によって整理される。導入・運用にあたっては、周辺システム連携や運用変更に伴う費用も確認が必要 | 民間製品として、初期費用・月額費用・保守費用・オプション費用などが発生する。機能範囲やサポート内容によって費用は異なる |
| 選定時の視点 | 国の標準化方針との整合性 | 標準化対応に加え、自院の診療体制・業務フロー・既存システムとの相性 |
両者は、医療情報の標準化に対応していくという方向性は共通していますが、標準化準拠の電子カルテでは、入力支援、部門システム連携、サポート体制、運用改善支援などの部分で違いが出ます。
そのため、選定時は、「標準化に対応しているか」だけでなく、自院の診療体制や業務フローに合うか、既存システムと連携しやすいか、導入後の運用支援を受けられるかといった点も確認することが重要です。また、費用についても、電子カルテ本体の利用料だけでなく、データ移行、周辺システム連携、職員研修、運用変更に伴う負担まで含めて検討する必要があります。
標準型電子カルテによって医療機関にどのような影響があるか
電子カルテ更新時の確認項目が増える
今後の電子カルテ更新では、標準仕様への対応状況を確認することが重要になります。特に、電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋、標準API、データ出力・データ移行への対応状況は、ベンダー選定時に確認しておきたい項目です。
既存の電子カルテを使い続ける場合でも、次回更新時や制度対応のタイミングで、どの範囲まで標準化対応が可能なのか、追加改修が必要なのかを確認する必要があります。
データ連携・データ移行の重要性が高まる
電子カルテの標準化が進むと、院内外のシステムとどのようにデータを連携できるかが、これまで以上に重要になります。電子カルテ情報共有サービスへの対応だけでなく、レセコン、検査、画像、文書管理、予約、会計など、院内の周辺システムとの連携も確認が必要です。
また、将来的に電子カルテを更新・変更する際には、過去データをどのように引き継げるかも重要です。データが特定のシステム内に閉じた状態になっていると、更新時の移行作業や費用が大きくなる可能性があります。そのため、標準化は単なる制度対応ではなく、長期的なシステム運用の柔軟性にも関わるテーマといえます。
医療機関が今から確認すべきポイント
現在の電子カルテの更新時期を確認する
まずは、現在利用している電子カルテの契約期間、保守期限、サーバー更新時期を確認しましょう。更新時期が近い場合は、単なる機器更新だけでなく、標準仕様への対応やクラウド型電子カルテへの移行も含めて検討する必要があります。
電子カルテの更新には、システム選定、見積取得、院内調整、データ移行、職員研修など一定の準備期間が必要です。更新直前になってから検討を始めると、選択肢を十分に比較できない可能性があります。
電子カルテ未導入の医療機関では、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスへの対応も視野に入れながら、導入時期や必要な準備を整理しておくことが重要です。
ベンダーに標準化対応の方針を確認する
すでに電子カルテを導入している場合は、現在のベンダーに標準化対応の方針を確認しておきましょう。電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋、標準API、データ出力・データ移行などに、いつ、どの範囲まで対応する予定なのかを把握しておくことが重要です。
標準化対応は、「対応予定があるか」だけでなく、対応範囲や時期、追加費用、既存システムへの影響まで確認する必要があります。特に、外部サービスとの連携やデータ移行に関わる部分は、導入後の運用にも影響しやすいポイントです。
あわせて、院内の運用変更が必要になるのか、職員への説明や研修がどの程度必要になるのかも確認しておくと、更新時の判断がしやすくなります。
自院の業務フローや既存システムとの連携を整理する
電子カルテは、レセコン、検査、画像、文書管理、予約、会計、地域連携など、さまざまな業務やシステムと関係しています。そのため、標準化対応だけでなく、自院の業務フローや既存システムとの相性も確認する必要があります。
特に、二重入力が発生している業務、紙で残っている運用、部門ごとに分断されている情報を整理しておくと、電子カルテ導入・更新時に必要な要件を明確にしやすくなります。標準化に対応した電子カルテであっても、自院の業務に合わなければ、現場の負担が増える可能性があります。
標準型電子カルテへの対応を考える際は、「標準化に対応しているか」だけでなく、自院の診療体制や運用に合う形で導入・活用できるかを確認することが重要です。
まとめ
国が開発する標準型電子カルテを導入するのか、標準化に準拠した民間電子カルテを選ぶのかは、医療機関の状況によって判断が異なります。標準化への対応は重要ですが、それだけでなく、自院の診療体制、業務フロー、既存システムとの連携、導入後の運用支援まで含めて検討することが大切です。
標準型電子カルテへの対応は、単なるシステム選定ではなく、医療情報の共有、業務効率化、クラウド化、制度対応を含む医療DXの一部として考える必要があります。今後の電子カルテ更新や新規導入に備え、早い段階から自院の課題や必要な要件を整理しておきましょう。
なお、標準化対応を見据えたクラウド型電子カルテの選択肢として、亀田医療情報の「blanc」があります。blancは、電子カルテ情報共有サービスへの対応を進めているクラウドカルテであり、標準化対応を見据えた電子カルテ導入・更新を検討する際の選択肢の一つになります。
シーズ・ワンでは、医療機関の業務フローや既存システムの状況を踏まえた電子カルテ導入・更新支援を行っています。標準化対応を見据えた電子カルテ選定や、blancを含むクラウド型電子カルテへの移行をご検討の方は、お気軽にご相談ください。
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監修
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。(株)シーズ・ワン 常務執行役員。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他