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病院における生成AI活用とは?業務効率化の事例・注意点・導入手順を解説

【監修】小松 大介

目次

はじめに:病院で生成AIが注目されている背景

病院では、診療記録や会議の議事録、院内文書、患者向け案内など、多くの文章作成・情報処理業務が発生しています。医療従事者や事務職の人手不足が続くなか、診療以外の間接業務の負担軽減は、病院運営における重要な課題です。

また、働き方改革への対応により、限られた時間のなかで業務を効率的に進める必要性も高まっています。クラウドサービスや音声認識技術の普及によって、生成AIを既存業務へ取り入れやすくなったことも、注目が高まっている背景の一つです。
さらに、令和8年度診療報酬改定では、ICTやAIなどを活用した業務効率化・負担軽減が推進され、生成AIを活用した文書作成支援なども診療報酬上の評価に関わる取り組みとして位置づけられています。こうした制度面の後押しも、病院における生成AI活用への関心を高めています。

一方で、病院で生成AIを利用する際は、患者情報や医療情報の漏洩、生成内容の誤りなど、医療機関特有のリスクにも注意が必要です。

本記事では、病院における生成AIの主な活用方法やメリット、利用時の注意点、安全に導入するための手順を解説します。

病院における生成AI活用とは

生成AIとは文章や情報を新たに作成・整理する人工知能(AI)

生成AIは、利用者が入力した指示をもとに、文章を作成したり、長い資料を要約したり、複数の情報を整理したりする技術です。ChatGPT、Gemini、Copilotなどが代表的なサービスとして知られています。

自然な言葉で指示できるため、専門的なプログラミング知識がなくても利用しやすい点が特徴です。病院においても、文書作成や情報整理をはじめ、さまざまな業務への活用が考えられます。

生成AIと従来型AI・RPA・音声認識の違い

病院で活用されるデジタル技術には、生成AI以外にも、従来型AI、RPA、音声認識、AI-OCRなどがあります。それぞれ得意とする処理が異なります。

技術主な役割病院での活用例
生成AI文章作成、要約、情報整理議事録、文書案、FAQ、マニュアル検索
従来型AI分類、予測、画像解析画像診断支援、需要予測、異常検知
RPA定型的な操作の自動化データ入力、転記、帳票作成
音声認識音声の文字化診療記録、口述入力、会議の文字起こし
AI-OCR紙や画像に記載された文字のデータ化紙帳票、申込書、紹介状のデータ化

例えば、会議音声の文字化には音声認識、文字化した内容の要約には生成AI、作成したデータの転送や登録にはRPAを使うといった組み合わせが考えられます。

生成AIだけですべてを処理するのではなく、業務の流れや目的に応じて複数の技術を組み合わせることで、より実用的な業務効率化につながります。

病院が生成AIを活用するメリット

文書作成や情報整理にかかる時間を短縮できる

生成AIを活用すれば、ゼロから文章を作成する負担を減らせ、職員は内容の確認や修正に注力しやすくなります。

また、文章の構成や表現を整える用途にも使えるため、文書作成が一部の職員に集中している場合の負担軽減にもつながります。

必要な情報へアクセスしやすくなる

院内には、マニュアルや規程、過去の議事録、操作手順書など、多くの情報が蓄積されています。生成AIを活用すれば、職員が自然な文章で質問し、関連する情報を探しやすくなります。

必要な情報へたどり着くまでの時間を減らせるほか、特定の担当者しか分からない状態を見直し、院内情報の共有や業務の標準化にもつなげられます。

患者対応や専門業務に使える時間を確保できる

生成AI活用の目的は、単に作業時間を減らすことではありません。定型的な業務を効率化し、人が担うべき業務へ時間を振り向けることが重要です。

間接業務を効率化することで、医療従事者は患者対応や専門的な判断に、事務職は調整や業務改善に時間を使いやすくなります。

病院で生成AIを活用できる主な業務

会議の文字起こし・議事録作成

生成AIは、音声認識によって文字化した会議内容を要約し、議事録の形式に整理する用途に活用できます。経営会議や各種委員会、カンファレンス、院内プロジェクトなど、定期的に開催される会議で利用しやすい方法です。

例えば、会議の内容から、議題、決定事項、継続して検討する事項、担当者などを抽出し、あらかじめ定めた形式で文章案を作成できます。単なる文字起こしではなく、情報を項目ごとに整理できる点が特徴です。

ただし、発言者名や数値、決定事項などは誤って認識される場合もあるため、最終的な確認は会議の出席者や担当者が行います。

院内文書・メール・患者向け案内の作成

院内通知や委員会資料、報告書、職員向けメールなどの下書き作成にも生成AIを活用できます。伝えたい要点や読み手、文体を指定することで、用途に応じた文章案を作成しやすくなります。

患者向け案内では、医療従事者向けの専門的な文章を分かりやすく言い換えたり、やさしい日本語に書き換えたりする活用も考えられます。外国語の案内文を作成する際の下書きとして使うことも可能です。

生成AIに文章を一から完成させてもらうというより、構成や下書きを作成し、担当者が内容や表現を整える使い方が適しています。

診療記録やサマリーの作成支援

音声認識と生成AIを組み合わせることで、医師や看護師などの口述内容を文字化し、診療記録の形式に整理できます。診療内容をSOAP形式にまとめたり、退院時サマリーや診療情報提供書の文案を作成したりする活用が考えられます。

電子カルテと連携できる仕組みでは、対象患者の過去の記録を参照しながら、今回の診療内容を所定の形式にまとめることも可能です。手入力だけに頼らず、記録作成を支援する方法として注目されています。

同善病院では、診療や訪問リハビリテーション中の会話を録音し、前回のカルテ情報と組み合わせてSOAP形式の文案を作成する仕組みが検証されています。

院内マニュアルや規程の検索

病院には、医療安全、感染対策、就業規則、院内申請、電子カルテの操作手順など、多くのマニュアルや規程があります。生成AIを活用することで、職員が自然な文章で質問し、必要な情報を探せる仕組みを構築できます。

例えば、「針刺し事故が発生した場合の報告手順を知りたい」「休暇申請はどの様式で提出するか」「停電時の初動対応を確認したい」といった質問に対し、登録された院内文書から該当する内容を提示します。

一般的な知識から回答させるのではなく、病院が指定したマニュアルや規程を参照させ、根拠となる文書や該当箇所も確認できるようにすることが重要です。

問い合わせ対応・院内ヘルプデスク

生成AIを活用したチャットボットなどにより、職員や患者から繰り返し寄せられる質問へ一次回答することもできます。

院内向けでは、人事・労務制度、各種申請、システム操作などの問い合わせが想定されます。患者向けでは、受付時間、受診方法、持ち物、予約変更など、一般的な案内への活用が考えられます。

すべての問い合わせを自動化するのではなく、定型的な質問には生成AIが回答し、個別判断や専門的な対応が必要な質問は担当部署へ引き継ぐ設計が適しています。

データ整理・分析業務の支援

生成AIは、文章や自由記述を整理し、論点や傾向を抽出する用途にも活用できます。

例えば、患者アンケートの自由記述を内容ごとに分類したり、職員ヒアリングの結果を論点別に整理したりできます。インシデントレポートや業務量調査の結果について、確認すべき傾向や論点を文章にまとめることも可能です。

また、経営数値やダッシュボードのデータをもとに、会議で確認すべきポイントやコメント案を作成する使い方も考えられます。生成AIは、計算や集計そのものよりも、集計後の情報を整理・要約し、文章化する業務に向いています。

複数のシステムを連携した業務ワークフローの自動化

生成AIは、AI-OCR、RPA、電子カルテ、チャットツールなどと連携させることで、一連の業務を自動化できます。

例えば、FAXやメールで受け取った書類を文字化し、内容を判別・要約したうえで担当部署へ通知したり、電子カルテの記録をもとに所定の様式で報告書案を作成したりする活用が考えられます。

生成AIが担う「抽出・要約・生成」と、RPA等が担う「取得・転送・登録」を組み合わせることで、個別作業だけでなく業務フロー全体の効率化につながります。

今後は、AIが目的に応じて必要な情報やツールを選びながら処理する「AIエージェント」の活用も広がる可能性があります。病院で利用する場合は、AIに任せる範囲と人が確認・承認する工程を明確にすることが重要です。

病院が生成AIを利用する際の注意点

患者情報や医療情報の漏洩を防ぐ

生成AIへ入力した情報は、利用するサービスや契約内容によって、外部サーバーに送信・保存されたり、AIの学習に利用されたりする可能性があります。そのため、氏名、患者ID、病名、検査結果、診療記録、音声などを、確認せずに入力してはいけません。

また、氏名を削除しただけでは十分とは限りません。年齢、病名、受診日、経過などの組み合わせから、患者を特定できる場合もあります。

法人向けサービスであっても、データの保存期間や保存場所、学習利用の有無、削除方法などは異なります。入力する情報だけでなく、アカウントや端末、アクセス権限、操作ログを含めて管理することが重要です。

生成AIの回答を診療や業務判断へそのまま使用しない

生成AIは、存在しない制度や文献を示したり、数値や日付を誤ったりすることがあります。こうした、もっともらしい誤情報を生成する現象は「ハルシネーション」と呼ばれます。

診療報酬、法令、施設基準などに関する内容は、必ず通知や公的資料などの原典を確認する必要があります。患者向け文書や診療関連文書についても、医療従事者や担当者による確認が欠かせません。

また、診断、処方、治療方針、緊急性などの判断を、汎用的な生成AIへ任せるべきではありません。医療機器として承認・認証されたAIと、一般的な生成AIサービスは分けて考える必要があります。

著作権や院外秘情報の取扱いに注意する

生成AIへ入力する際は、患者情報だけでなく、院内の機密情報や他者の著作物にも注意が必要です。有料の書籍や論文、他社が作成した資料、契約書、見積書、経営資料、人事情報などを、安易に入力してはいけません。

生成された文章や画像を外部公開する場合も、既存の著作物と類似していないか、引用や出典の扱いに問題がないかを確認します。生成AIが示した出典が正しいとは限らないため、必要に応じて原資料まで確認することが大切です。

職員による無断利用やシャドーAIを防ぐ

病院が正式な利用方針を示していない場合、職員が個人アカウントや私物端末から生成AIを利用する可能性があります。このように、組織が把握・管理できない状態でAIが利用されることを「シャドーAI」と呼びます。

生成AIを一律に禁止するだけでは、利用実態が見えにくくなることもあります。利用を認めるサービスや業務、入力できる情報の範囲を明確にし、出力内容の確認方法や問題発生時の報告先を周知することが重要です。

病院が生成AIを安全に導入する手順

病院が生成AIを安全に導入する7つのステップ

1.現在の業務と解決したい課題を整理する

まずは、生成AIを導入すること自体を目的にせず、現在どの業務に負担がかかっているかを整理します。

例えば、議事録や報告書の作成、診療記録の入力、院内マニュアルの検索、定型的な問い合わせ対応など、作業時間や発生件数を把握します。そのうえで、どの業務をどの程度効率化したいのかを明確にします。

課題が曖昧なままツールを選ぶと、導入後に使われなくなったり、確認作業が増えてかえって負担になったりする可能性があります。

2.対象業務と取り扱う情報を整理する

次に、生成AIを利用する業務と、そこで扱う情報の種類を確認します。

患者情報や診療情報を扱うのか、院外秘の情報を含むのか、誤った出力が患者の安全や業務判断に影響するのかを整理します。また、生成された内容を外部公開するのか、電子カルテなどのシステムへ登録するのかも確認が必要です。

対象業務ごとに「利用可能」「条件付きで利用可能」「利用不可」と区分しておくと、院内で判断しやすくなります。

3.利用するサービスと必要な機能を比較する

対象業務が決まったら、必要な機能や安全管理の条件をもとにサービスを比較します。

主な確認項目は以下の通りです

  • 入力データの学習利用の有無
  • 保存期間と保存場所
  • アカウントや権限の管理
  • 操作ログ
  • 認証方法
  • 契約終了後のデータ削除

など

院内文書の検索、音声入力、電子カルテとの連携を想定する場合は、それらに対応できるかも確認します。

無料版、個人向け、法人向け、医療機関向けでは、管理機能や契約条件が異なります。費用だけでなく、同規模の医療機関での導入実績やサポート体制も含めて比較することが大切です。

4.院内の利用ルールと管理体制を決める

生成AIを正式に利用する前に、院内ルールと管理体制を整えます。

利用を認めるサービスや対象業務、利用できる職員・部署、入力してよい情報と禁止する情報を明確にします。あわせて、出力内容の確認者や承認者、アカウント管理の責任者、利用ログの管理方法、インシデント発生時の報告先も決めます。

情報システム部門だけで判断するのではなく、医療安全、個人情報保護、診療部門、事務部門などの関係者を含めて検討することが重要です。

5.リスクの低い業務から試験導入する

最初から電子カルテや患者情報を扱う業務へ導入するのではなく、リスクの低い業務から小規模に始めます。

例えば、個人情報を含まない院内文書の下書き、公開情報の要約、会議アジェンダの作成、ダミーデータを用いた議事録作成などが考えられます。部署や利用者を限定し、実際の業務で効果と問題点を確認します。

試験導入を通じて、出力の精度、修正にかかる時間、職員の使いやすさなどを把握し、本格導入の判断材料とします。

6.職員研修を実施する

生成AIの利用を広げる前に、職員向けの研修を実施します。

研修では、操作方法だけでなく、生成AIが誤る可能性、入力してはいけない情報、出力結果の確認方法、院内ルール、インシデント発生時の対応などを扱います。判断に迷った場合の相談先も明確にしておきます。

生成AIを安全に活用するには、ツールを使えること以上に、どの場面で使ってよいかを職員が判断できることが重要です。

7.導入効果を検証し、継続的に運用を見直す

導入後は、作業時間の削減、修正にかかった時間、利用率、職員の使いやすさ、出力内容の正確性などを確認します。期待した効果が得られていない場合は、対象業務や利用方法、プロンプト、確認体制を見直します。

また、生成AIは、モデルや機能、料金体系、利用規約、データの取扱いが継続的に変化します。導入時に決めた運用を固定せず、サービスの更新情報やAIの最新動向を確認しながら、院内ルールや職員研修も見直すことが必要です。

新しい生成AIやAIエージェントなどを取り入れる場合も、すぐに全面展開せず、安全性と業務への適合性を確認しながら段階的に広げます。

まとめ

生成AIを病院業務に活用する際は、ツールを先に選ぶのではなく、まず自院の課題と対象業務を整理することが重要です。生成AIだけでなく、RPAや音声認識、電子カルテ連携なども含め、業務に適した方法を選ぶ必要があります。

また、患者情報や医療情報の取扱い、出力内容の確認、院内ルールの整備など、安全に利用するための運用設計も欠かせません。リスクの低い業務から試験的に導入し、効果を検証しながら段階的に活用範囲を広げていくことが現実的です。

シーズ・ワンでは、病院の業務整理から、生成AIの活用方針、システム選定、導入後の運用定着まで支援しています。病院における生成AI活用や業務効率化を検討している場合は、お気軽にご相談ください。

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監修

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。(株)シーズ・ワン 常務執行役員。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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