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電子カルテを入れて「よかった」と思えるために 〜国が目指す医療DXの全体像と、現場の準備の話 〜

【執筆】林佑樹

はじめに

「生成AIを医療現場でも使えないか」という話題が、最近あちこちで聞かれるようになりました。カルテの記録補助、問い合わせ対応の自動化、診療後の業務効率化——各地の医療機関で、さまざまな形での活用検討が始まっています。

一方、「電子カルテの導入はまだ先でいいか」と考えている病院も少なくありません。ただ、この二つの話題は実は深くつながっています。そして国は今、この両方を一体として動かそうとしています。

今回は、医療機関が今後の診療継続を考えるうえで、電子カルテの導入が持つ意味を整理しながら、導入を成功させるためにあらかじめ準備しておきたいことをお伝えします。

電子カルテ準備なし導入 vs 準備あり導入の比較
図1:準備なし導入 vs 準備あり導入の比較

国は何を目指しているのか~2030年の全体像~

まず、国が医療DXで目指していることを整理しておくと、話がわかりやすくなります。

政府の方針(デジタル社会の実現に向けた重点計画・令和7年6月閣議決定※1)では、病院の情報システムのクラウド化について、「生成AIなど最新技術を活用しやすくするため、現在のオンプレ型のシステムを刷新し、クラウド型システムへ移行していくことを目指す」と明記されています。つまり、生成AIを含む新しい技術を医療に活用するための前提として、まずシステムのクラウド化がある、という位置づけです。

あわせて、「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」ことも閣議決定レベルで定められています(※1・※2)。さらに電子カルテは、電子処方箋や全国の医療情報を連携する「電子カルテ情報共有サービス」とも一体的な整備が求められており、単体のシステムというよりも、医療情報のインフラ基盤として位置づけられています。

2025年6月時点で、薬局への電子処方箋の導入は8割を超えています。一方、医療機関への導入はまだ1割程度にとどまっています(※3)。厚生労働省はこの状況を課題として認識しており、今後は医療機関への導入加速を本格的に進める方針を示しています。その際、「電子カルテが導入されていることが前提」と明確に述べられており、電子カルテの未整備は電子処方箋対応の障壁にもなります。

これらを踏まえると、電子カルテの整備は今後の保険診療の運用上、事実上の必要条件になっていく可能性が高い、と見ておく必要があります。「いつかはやらなければ」という話ではなく、5〜7年のシステム更改サイクルを考えると、次の更改タイミングこそが対応の機会です。

国が目指す医療DXの全体像——クラウド化・情報連携・生成AI活用
図2:国が目指す医療DXの全体像——クラウド化・情報連携・生成AI活用

電子カルテ導入で失敗しないためのポイント① 業務フローの見直しをセットで考える

では、実際に電子カルテを導入するうえで、何に気をつければいいでしょうか。

まず一つ目が、業務フローの見直しです。「電子カルテを入れたけれど、かえって現場が大変になった」という声は珍しくありません。多くの場合、電子カルテ自体の問題ではなく、今の業務の流れをそのままにしてシステムを乗せようとしたことが原因です。

実際の支援現場でも、こうした状況は見受けられます。ある病院では、クリニック部門に電子カルテが先行導入されていたにもかかわらず、病棟との情報連携が設計されておらず、情報を共有するためにスタッフが物理的に移動する必要がありました。また別のケースでは、電子カルテ上で処方オーダーを行っても、薬剤部への連絡は別途電話で行うという運用が残っており、二重作業が常態化していました。「システムは入れた、でも業務は変わっていない」という状態です。

「誰がどのタイミングで何を入力するか」「医師・看護師・事務の間でどう情報をつなぐか」——こうした流れが設計されていないと、入力の二度手間が生まれたり、情報の引き継ぎが途切れたりします。導入前に現状の業務フローを可視化し、「電子カルテが入った後の姿」を先に描いておくことが、現場の定着に直結します。

さらに、この業務設計の質は、将来の生成AI活用にも影響します。生成AIがカルテ記録の補助や情報の整理・要約を担うためには、「整理されたデータの流れ」が前提です。誰がいつ、どのような形式で情報を入力するかが曖昧なままでは、AIが扱える情報にもなりません。電子カルテ導入時に業務フローをきちんと設計することは、将来のAI活用への土台を同時に整えることでもあります。

業務フロー Before(現状)/ After(導入後)の比較
図3:業務フロー Before(現状)/ After(導入後)の比較

💡補助金メモ

コンサルティング費用も補助対象です
業務フローの調査・設計など、外部の専門家へのコンサルティング費用は、今回の補助金の対象経費に含まれています。職員向けの操作説明・研修・マニュアル作成費用も対象です。「専門家に頼む余裕がない」とためらっていた場合でも、補助金の枠組みの中で対応することができます。

電子カルテ導入で失敗しないためのポイント② 院内ネットワークを同時に見直す

もう一つ、見落とされやすいのが院内のネットワーク環境です。

近年、医療機関へのランサムウェア攻撃が増えており、2021年・2022年には国内の病院で診療が数か月にわたって停止する事例が相次ぎました。クラウド型の電子カルテそのものは国が定める情報セキュリティ基準(ISMAP)を満たした環境で動きますが、そこにつながる院内側のネットワークが老朽化していれば、そこが侵入口になります。「うちの規模では狙われない」という感覚は、もはや通用しない状況です。

電子カルテを入れるタイミングで院内のネットワーク環境を一緒に確認・整備しておくことが、安心した運用への近道です。また、将来的に生成AIのツールを院内のシステムと連携させていくうえでも、ネットワーク環境の整備は基盤として必要になってきます。

クラウド電子カルテは安全でも、院内ネットワークの脆弱性が侵入口になる
図4:クラウド電子カルテは安全でも、院内ネットワークの脆弱性が侵入口になる

💡補助金メモ

ネットワーク整備・セキュリティ設計費用も補助対象です
「情報セキュリティ対策に係る設計・実装費用」「ネットワーク整備費用」も今回の補助対象経費に含まれます。電子カルテの導入とあわせてインフラの見直しをまとめて行えるこのタイミングは、なかなか訪れるものではありません。

電子カルテ補助金について:4月30日締め切り、今から動いても遅くはありません

2026年度の厚生労働省補助金(「医療情報システムのクラウド化に伴う検討事業」※4)の申請期間は4月1日〜4月30日です。補助率は経費の5分の4以内、上限は1億円。対象はクラウドネイティブ型電子カルテの新規導入またはオンプレミス型からの更新です。

申請には参考見積の取得が必要で、そのためには導入の方針がある程度固まっている必要があります。業務フローの整理やネットワーク環境の確認と並行して進めることになるため、4月に入ってから一気に動こうとすると厳しくなるケースもあります。「今年度は情報収集だけ」と思っていた方も、まず現状を整理することから始めることをお勧めします。

令和8年度 電子カルテ補助金 概要
図5:令和8年度 電子カルテ補助金 概要

最後に

電子カルテの導入は、病院ごとに抱える事情も現場の状況もさまざまです。「何から手をつければいいかわからない」「ネットワークのことに詳しい人間がいない」——そういった状況は珍しくありません。

補助金の申請準備に限らず、「まず現状を整理したい」「導入にあたって何が必要か話を聞いてみたい」という段階からでもご相談ください。シーズワンでは、業務フロー調査・ネットワーク設計・電子カルテの選定・補助金申請のサポートまで、一気通貫でお手伝いしています。

お問い合わせ・資料ダウンロードはこちら

令和8年度「医療情報システムのクラウド化に伴う検討事業」補助金 概要

補助率・上限経費の4/5以内(上限1億円)
対象機関病院(医療法上の病院)
対象クラウドネイティブ型電子カルテの新規導入・オンプレミスからの更新
主な補助対象経費セットアップ費・端末・ネットワーク整備・セキュリティ設計・研修・利用料(最大3年分)・コンサルティング費用 等
申請期間2026年4月1日(水)〜 4月30日(木)

【参照資料】
※1 デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和7年6月13日閣議決定)
※2 経済財政運営と改革の基本方針2025(令和7年6月13日閣議決定)
※3 電子処方箋・電子カルテの目標設定等について(令和7年7月1日 厚生労働省)
※4 令和8年度「医療情報システムのクラウド化に伴う検討事業」補助金公募要領(厚生労働省医政局)


執筆

林 佑樹
上智大学経済学部卒業。新卒で大手企業向け基幹システム開発企業に勤務し、大企業に対するITシステムの提案営業および数十名規模のプロジェクト管理に従事。2013年よりメディヴァに参画し、地域医療を担う医療機関の経営支援、運営改善、DX推進、新規事業開発を担当。クリニック・在宅医療領域を中心に、現場オペレーションの改善、情報システム整備、業務のデジタル化、AI・IoTを活用した新たなサービス開発を推進してきた。現在は、医療機関向けの情シス代行やDX支援の体制構築・事業推進にも取り組んでいる。

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